ナガサキ型原爆(プルトニウム原爆)


 ヒロシマに投下された原子爆弾は「ウラン原爆」で、ナガサキに投下された原子爆弾は「プルトニウム原爆」です。それぞれウランとプルトニウムを原料としています。(ウラン原爆の説明はこちら

 ここでは「プルトニウム原爆」について説明します。
先に「ウラン原爆」を読んでくれた方が理解し易いと思います。
プルトニウムは天然の元素ではなく、人工的につくられた元素です。
ウランの陽子数は92個ですが、プルトニウムはそれより2個多い94個の陽子を持っています。つまり、ウランよりさらに重い元素であり、ウランよりさらに不安定な元素でもあります。
まず、プルトニウムがどうやって製造される
のかを説明します。
 プルトニウムは、原子力発電の原子炉の中で自然につくられます。
原子力発電の原料は、原子爆弾の原料と同じ「ウラン235」です。
原子爆弾の場合には,100%に近い純度のウラン235を使わなければなりません。100%の濃縮ウランでないと核分裂の連鎖反応が暴走せず、大きな爆発力を生めないからです。
しかし、原子炉では、原子爆弾とは逆に核分裂の連鎖を制御して、安定したエネルギーを得ることが必要であるからして、3〜5%程度の濃縮ウランを使用します。つまり、95%はウラン238であり、5%がウラン235であるのです。
原子炉の中でも原子爆弾と同様に、中性子をウラン235の核にぶち当て、核分裂を誘導させ、それを連鎖させることによって熱エネルギーを発生させます。
この時、ウラン235にぶち当てようとした中性子の大部分はウラン238にも吸収されることになります。核燃料では、ウラン238の方が95%と圧倒的に量が多いからです。
また、核分裂を起こしたウラン235からも、平均2.5個の中性子が飛び出し、他のウラン235がその中性子を吸収して核連鎖が起こるわけですが、この飛び出した中性子の大部分もウラン238が吸収します。
こうして中性子を吸収したウラン238は、中性子が1個多くなり「ウラン239」になります。
しかし、ウラン238は中性子を吸収しても核分裂は起こしません。
核分裂は起こしませんが、中性子が多くなったウラン239は不安定な元素となり、「ベータ崩壊」を起こします。
ベータ崩壊とは、中性子の1個が陽子1個に変わる現象です。
陽子数92個であったウラン239は、ベータ崩壊によって1個の中性子が1個の陽子に変化し、陽子数が93個となり、「ネプツニウム239」という元素に変わってしまいます。物質が変化するのです。
さらにネプツニウム239は中性子を1個吸収して再度ベータ崩壊を起こして1個の中性子が陽子に変わり、陽子数94個の「プルトニウム239」に変化します。
このようにしてできたのが「プルトニウム」という元素なのです。
核がベータ崩壊を起こす時に「電子」と「反ニュートリノ」が同時にできますが、これは説明が難しいので省略します。
(ニュートリノは、2002年にノーベル賞を受賞された小柴博士の「スーパーカミオカンデ」が有名です。)

 このようにして製造されたプルトニウムを原料としているのが「プルトニウム原爆」で、ナガサキに投下されたのがこの原子爆弾です。
プルトニウム原爆はウラン原爆よりも大きな威力を持っていますが、ナガサキでの被害がヒロシマよりも小さかったのは、長崎の地形の影響であったようです。
平野であった広島に比べて、山が多い長崎は、その山が原子爆弾の熱線や衝撃波、そして爆風などを防いでくれたようですが、それでも大きな被害であったことに変わりありません。

 プルトニウム原爆の核分裂や連鎖についてはウラン原爆と同じですので、「ウラン原爆」の説明を参照してください。

プルトニウム原爆の仕組み
 プルトニウム原爆の仕組みは、ウラン原爆に比べてかなり複雑です。
プルトニウム原爆の場合は、ウラン原爆のように二つの臨界未満のプルトニウム塊を爆薬によってぶつけ合わせ、一挙に超臨界に達する仕組みはとれません。 二つの塊がぶつかる前に、爆薬の爆発によってプルトニウムの一部が核分裂を起こし、超臨界に達する前に連鎖が終焉してしまうからです。
 プルトニウム原爆の場合は、右図2.のようにウラン238でできた完全球型の器の外側に爆薬を仕掛け、この爆薬に同時に点火します。
この際、爆薬の衝撃方向は球の中心に向かうように細工を施すため、衝撃波をレンズによって中心に向かうようにする構造になっています。このレンズとは、金属製やガラス製のものではなく、爆薬によってレンズとなるもので「爆縮レンズ」とも呼ばれています。
ここで外側の爆薬に寸分の狂いもなく同時に点火しますと、爆薬の衝撃は同時に球の中心方向に向かい、その衝撃と圧力によってプルトニウムは一気に圧縮されます。
圧縮されるということは、プルトニウムの密度が濃くなるわけで、原子と原子の間が隙間なく縮まるということで、プルトニウムが超臨界に達します。
この時、中心にあるイニシェーターから中性子が一挙に放出され、密度が濃くなったプルトニウムに吸収され、核分裂の連鎖反応が生じます。

図2.プルトニウム原爆の仕組
 このような爆縮式の仕組みでプルトニウム原爆は爆発します。
1945年8月9日午前11時2分、長崎に投下された原子爆弾はこのプルトニウム原爆でした。
ウラン原爆も最近ではこのような爆縮式の構造となっています。 つまり、ウラン原爆の場合には、ウラン原爆で説明した半球同士をぶつける「ガン式」でも、プルトニウム原爆と同様の「爆縮式」のどうちらでも構造をとることができます。


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