ヒロシマ型原爆(ウラン原爆)


 広島に投下された原爆は「ウラン爆弾」で、長崎に投下された原爆は「プルトニウム爆弾」です。
何が違うのかと言いますと、まず原料が異なります。ウランとプルトニウムの違いです。ウランとプルトニウムはいずれも「元素」です。
「元素」とは、ひとつの物質から構成されているもので、水素(H)や鉄(Fe)は元素ですが、水(H2O)は水素と酸素の2元素から構成される物質で元素ではありません。
昔、中学時代でしたでしょうか、元素の周期表を覚えるのに「水兵リーベ僕の船・・・」という語呂合わせを暗記したこと、記憶ありませんか?
そんなことはどうでもいいのですが、ウランは天然のもので鉱山から産出されますが、プルトニウムは天然のものではなく人工的な元素です。
ヒロシマに投下された原爆
 ここでは「ウラン原爆」について説明します。

 鉱山から産出されるウランは「ウラン238」というものが99.3%を占め、残り0.7%が「ウラン235」というものです。
ウラン原爆は、この数少ない「ウラン235」が材料となりますので、産出されたウランから100%近い純度の「ウラン235」を取り出すことが必要となります。これを「濃縮ウラン」と言います。
では、「ウラン235とウラン238はどう違うのか?」という疑問が出ると思います。
そもそも、ウランのあとに付いている「235」とか「238」とかいう数字は何なのか? ということを知らなければなりません。

 どんな物質でも「原子」からできている、と言うことは誰もが知っていると思います。
その原子は、プラスの電気を帯びた「陽子」と、全く電気を帯びていない「中性子」と、マイナスの電気を帯びた「電子」から構成されています。
陽子と中性子によって「核」が構成され、その核の周りを電子が回っています。(右図1.を参照)
この世の中で最も軽い元素である水素は、1個の陽子と1個の電子でできています。 水素原子は中性子をもっていません。 元素のなかで中性子がないのは水素だけで、他の元素は陽子と同数かまたは陽子の数より多い中性子を有し、陽子と中性子で核を構成しています。
どんな物質でも陽子の数と電子の数は同じで、陽子の数で元素が異なるのです。
つまり、水素の陽子数は1個、ヘリウムは2個、リチウムは3個・・・といった具合で、数が多くなれば当然重くなります。
天然の元素の中で最も重いのがウランで、陽子の数は92個あります。
図1.核と電子
 さて、ここで大事なことですが、先ほど陽子はプラスの電気を帯びている、と書きました。
プラスとプラスは反発する、というのは誰しもが知っていることです。
したがって、核の中に集まっている92個もの陽子が反発し合って核の中から飛び出してしまうはずです。
これをつなぎ止めているのが陽子と中性子の「核力」です。
陽子と陽子間、陽子と中性子間、中性子と中性子間には核力(引力)が働いていて、その核力が電気の反発よりも大きいから陽子が核の外に飛び出すのを防いでいるのです。
ウラン235には中性子が143個、ウラン238には中性子が146個あります。
これでおわかりかと思いますが、ウランのあとに続く「235」や「238」は、陽子数と中性子数の和なのです。
つまり、ウラン235は92個の陽子と143個の中性子、そして92個の電子から原子が成り立っています。
そしてウラン238は、92個の陽子と146個の中性子、そして92個の電子から原子が成り立っています。
(ちなみに、同一の元素で中性子数が異なるものを「アイソトープ」といいます)
図2.核の構造
 なぜこんな科学的なことが必要なのかと言いますと、原爆を知るには、この原子構造が重要であるからです。

 ウランは天然元素のなかで最も重い元素であると書きました。
ちなみに「鉄」の陽子数は26個なので、ウランの3分の1以下です。
重い元素の核ほど不安定です。そして不安定な核ほどエネルギーを蓄えています。
人間でも不安定な時にはエネルギーを大きく蓄えていて、何かの拍子でそれが一気に爆発するのと同じです。
ウランは不安定な元素であるからして、何かの刺激を与えてやれば核が容易に分裂し、蓄えていたエネルギーを一気に放出することになります。これを「核分裂」といいます。
ウラン235は核分裂を起こしますが、ウラン238は核分裂を起こしません。(正確には「核分裂を起こしにくい」ということ。ウラン238に1千万度以上の高熱を与えれば核分裂を引き起こす)
核分裂を発生し易い物質には以下の条件があります。

@重い元素であること・・・重い元素とは陽子と中性子の総和が大きいということで、重い元素ほど不安定であり核分裂を起こし易い。
A陽子と中性子の数が「偶数」「奇数」であること・・・ウラン235は「陽子92個」「中性子143個」の「偶数」「奇数」であり、ウラン238は「陽子92個」「中性子146個」の「偶数」「偶数」です。 ちなみに、プルトニウム原爆に使用されるプルトニウム239は、「陽子94個」「中性子145個」のこれも「偶数」「奇数」で成り立ちます。

 では、どうやって核に刺激を与えて分裂させるのか?
それは極簡単なことで、核めがけて一つの中性子を外から与えてやればいいのです。(図3.を参照)
もともと不安定なウラン235の核は、外から入ってきた、たった一個の中性子のお陰でバランスを失い、一気に核分裂を引き起こし、この時蓄えていたエネルギーを放出します。
しかし、たった一個の核分裂だけで出るエネルギーは僅かなものですが、1キログラムのウラン235には1兆の1兆倍もの核があり、この核全部が一度に核分裂を起こせば、その総エネルギーは莫大なものになります。
したがって、いかにして核全部を瞬間的に分裂を起こさせるかが問題となります。

図3.核分裂の引き金
 よくできたもので、核が分裂する時、ウラン235の場合には平均2.5個の中性子が外に飛び出します。
この飛び出した中性子が他の核に入り込み、その核が分裂、そして分裂した核からまた中性子が飛び出し他の核に入り・・・・、と言った具合にネズミ算式に連鎖が起こり、やがてウラン235の核全部が分裂を起こすことになります。(図4.を参照)
これが「核連鎖分裂」で、核連鎖分裂を起こすことを「臨界」といいます。
なんと、1キログラムのウラン235の核すべてが連鎖分裂を起こすのは、1億分の1秒という僅かな時間であり、一気に爆発が起こることになります。
 このような核分裂(爆発)の仕組みで、僅かな量のウラン235で、都市を全部破壊するだけのエネルギーを放出するわけで、これが原発の科学的仕組みです。
ちなみに、ヒロシマに投下された原爆で燃焼したウランの量は、僅か800グラム程度であったろうと言われています。

図4.核分裂の連鎖反応
ウラン原爆の仕組み
 ウラン型原爆の仕組みは比較的簡単な構造です。(右図5.を参照)
半球型の容器二つに臨界未満のウラン235を詰め、各々を一定の距離を開けてセットします。
臨界未満とは、核分裂の連鎖反応を継続しない量のことです。
しかし、各々は臨界未満ですが、この半球が二つ合わされば連鎖反応を継続できる量、すなわち「超臨界」になります。
半球には中性子を放出する装置である「イニシェーター」がセットされ、半球二つが合わされた時点でイニシェーターから中性子が放出され、超臨界となったウラン235に中性子が飛び込み、一気に核分裂の連鎖反応が起こる仕組みです。
図5.ウラン原爆の仕組1
 この半球二つを合わせるために、爆薬が装填されています。
起爆装置が爆薬に発火して爆発が起こり、左半球は右半球に強い衝撃でぶつかります。 大きな圧力で両半球が合わさることになり、ウラン235は圧縮されて一挙に超臨界に達します。(図6.参照)

図6.ウラン原爆の仕組2
この時、イニシェーターから中性子が放出され、超臨界に達したウラン235の塊はたちどころに核分裂連鎖反応を引き起こします。
前記しましたが、たった1キログラムのウラン235でも、その核は1兆の1兆倍もの数があり、その核の殆どが1億分の1秒という極短時間で核分裂の連鎖反応を引き起こすわけですから、その時放出されるエネルギーの総和は膨大なものとなります。
瞬間的には摂氏1千万度の熱を放出します。
 
図7.ウラン原爆の仕組3
1千万度になった爆弾全部は一気に気体となり、爆弾はもとより周囲の大気も1千万度の熱を受けて一挙に膨張し、これが大きな爆発になるわけです。
当然、強烈な衝撃波が生じ、この衝撃波が周囲の建物や家屋などをなぎ倒し、3千度以上の超高温によって焼き尽くすことになります。
これがウラン原爆の仕組みです。
 1945年8月6日午前8時15分、広島に投下されたのはウラン爆弾であり、ちなみにこの爆弾の爆薬の起爆装置は高度によって発火する仕組みでした。
原子爆弾は高度9862メートルから投下され、爆発が起こったのは広島市の原爆ドームにほど近い島病院の上空の高度600メートルでありました。


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