クリーンな核爆弾・・・水爆と第五福竜丸の不思議


 水素爆弾(水爆)はクリーンな爆弾と言われます。 爆弾にクリーンやダーティがあるとは思えませんが、水爆は放射性物質を殆ど発生させない爆弾であることから「クリーン」という言葉が使われます。
勿論、水爆の爆発時に大量の中性子線およびアルファ線、ベータ線、ガンマ線が発生します。 しかし、これらの放射線は初期放射線として爆発時だけのことであり、しかも距離の二乗に反比例して減衰(弱くなる)します。 水爆は原子爆弾のような核分裂を原理としませんので、核の分裂片、いわゆる放射性物質(残留放射線)を生成することはありません。 水爆の爆発時に発生する中性子線の照射を受けた物質が放射性物質に変化することがありますが、原子爆弾と比較して放射性物質の生成は極めて少なく、土壌などが長期にわたって放射能汚染がされることはありません。 つまり水爆は、原子爆弾に比べて放射能の発生は極めて少ない核爆弾です。
(水爆の詳細や原子爆弾との比較については こちら をご覧ください)

 しかし、ここで大きな疑問が生じます。

 1954年3月1日に、米国の水爆実験によって発生した大量の放射性降下物(いわゆる死の灰)を浴びた日本の遠洋マグロ漁船・第五福竜丸の事件です。
前述しましたように、水爆が放射性物質を発生させないクリーンな爆弾であるならば、第五福竜丸の乗員が放射性降下物(放射性物質)によって被曝することはありえない、という矛盾が生じるからです。

 クリーンなはずの水爆が、大量の放射性物質を発生させるのはなぜでしょうか?

 この答えは簡単であるにも関わらず、大勢の方がご存知ないことなのです。 しかも、この疑問の答えをご存知でないことから、水爆の原理である核融合という原理に大きな誤解を抱いておられる、という現実があります。
 水爆を爆発させるためには1億℃という超高熱が必要です。 こんな高熱を発生するようなものは地球上にあるはずがないのですが、実はあったんです。 それは原子爆弾です。
 実は、水爆を起爆させるための高熱発生装置として原子爆弾を利用しているのです。
ゆえに、水爆実験によって生ずる大量の放射性物質は、水爆の起爆装置として利用している原子爆弾が生成する放射性物質であるのです。
 このことから、「水素爆弾によって発生した放射性物質で第五福竜丸が被曝した」というのは本当の意味で正しいとは言えず、「水素爆弾の実験によって・・・・」という言い方が正しいと思えます。 かと言って、水爆を肯定しているのではなく、核融合を正しく考える基本を述べているにすぎません。
 


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