ヒロシマ原爆と福島原発事故の放射線量相違


 原爆や原発の放射線は大きくは「初期放射線」と「残留放射線」に分かれます。

(初期放射線)
 ヒロシマ原爆が1945年8月6日AM8:15 に爆発した時、ウランの核分裂によるエネルギーの発生で大量の中性子線とガンマ線が放出されました。
原爆が爆発した時のように、ウランが核分裂を起こした時点で発生する放射線を初期放射線といいます。ヒロシマ原爆の初期放射線量は以下の数値です。(本来はグレイという単位ですが、わかり易くするためにシーベルトに変換しています)

   爆心地        ガンマ線 123,000msv(ミリシーベルト)
               中性子線 35,000msv


  500m地点      ガンマ線  35,000msv(ミリシーベルト)
               中性子線  6,400msv

 この大量の放射線によって多くの人々が死亡し、また後に後遺症を残すこととなりました。
しかしこの初期放射線は、距離の二乗に反比例して減衰しますので、遠方にいた方は殆ど影響を受けることはありませんでした。また、直射しない場所、例えば家の中や物陰にいた方なども大きな影響を受けることはありませんでした。
この初期放射線は原爆が爆発した際に放出されるもので、一瞬にして大量の放射線を出しますが継続するものではありません。(中性子線を照射された物質は放射性物質に変わりますが、一瞬の放射ですので大きく放射性物質に変化するものではありません)
 原子力発電でも核分裂が起こっているときに初期放射線が発生します。しかし、原発では原子炉を覆っている圧力容器や格納容器によってこれら初期放射線が外に漏れることはありません。津波が起因した事故が発生した時には、既に核分裂の連鎖反応は止まっていた(地震発生時に燃料棒間に制御棒を挿入し臨界を脱して臨界未満状態になっていた)、と言われていますので、事故後に初期放射線が発生していることはないと思えます。ですから原爆と原発の初期放射線量を比較することはナンセンスであると思います。

(残留放射線)
 次は残留放射線です。残留放射線は単に放射性物質と言われています。
ウランやプルトニウムが核分裂を起こした際、核がふたつに分裂するわけですから必ず分裂片が生じます。饅頭を割ればふたつの分裂片ができますが、それぞれの分裂片はやはり饅頭であり、決して他の物質に変化するものではありません。しかし、ウランやプルトニウムの核が分裂しますと、できる分裂片はウランやプルトニウムではなく、まったく異なる物質に変化してしまいます。
これをウランで説明します。
ウランの核には陽子が92個あります。「ウラン235」であっても「ウラン238」であっても陽子数は必ず92個で、中性子数が異なります。陽子数が92個でないウランは絶対に存在しません。つまり、陽子の数が元素(物質)を確定付けるのです。
ちなみに水素の陽子数は1個、鉄は26個、鉛は29個です。
さて、核が分裂するということは陽子数がふたつに分かれるということで、53個と39個に分かれると、それはヨウ素(陽子数53個)とイットリウム(39個)であり、キセノン(54個)の相棒は必ずストロンチウム(38個)であります。この合計はどんなことがあっても92個(ウラン)であります。
今世間を騒がしているセシウム(55個)もこのようにして生まれたもので、その相棒は100%の確率でルビジウム(37個)であります。
ではどんな分裂のしかたをするのか? それは神のみぞ知ることで、まったく予測ができるものではありません。
さて、こうしてできた分裂片は大きなエネルギーを持っています。エネルギーをもった分裂片はなんとか安定しようとしますので、外部にエネルギーを放出します。このエネルギーの放出が放射線です。つまり放射線とはエネルギーの流れであります。ゆえに分裂片は放射線を出すことになり「放射性物質」と言われるものとなります。
 ヒロシマ原爆でも大量の放射性物質が発生しました。その量はウランの量で推定できます。
ヒロシマ原爆に搭載されたウラン235の量は50kgと言われていますが、この内、核分裂を起こしたのは僅か800gです。つまり、800gのウラン235が分裂片(放射性物質)を生じさせました。その分裂片の量は、1兆×1兆×2 ということになります。これだけでなく、分裂しなかったウラン235も100万℃の爆発熱によって一瞬で気化してこれも放射性物質となりました。
 一方、福島原発事故でも同様の核分裂が成され、大量の分裂片が発生しているわけですが、福島原発の(事故があった)4基の原発のウラン(二酸化ウラン)総量は350t/年であります。
その内、核分裂を起こすウラン235は4%程度であるからして、14t/年のウラン235の量となります。
これだけでヒロシマ原爆と福島原発事故のウラン量の比較をすると、福島原発はヒロシマ原爆の(ウラン量で)35万倍、(ウラン235の量)1.4万倍であるということになります。
しかし、このウラン235の全てが核分裂を起こしたものではありません。また、核分裂をおこしたあとの分裂片のどの程度がメルトダウンによって溶融したのか、さらにはその内のどれだけの量が外部に漏れたのか、それはまったくわかりませんし、推定で公表しても、それは混乱だけを生むことになると思えます。例えば、ヒロシマ原爆でも福島原発でも大量の放射性物質を大気に撒き散らしましたが、その放射性物質の種類は100種類以上もあります。(同位体含む)
一口に放射性物質といっても、それを分類すると以下の三種に大別されます。

  ●不活性・・・・・・・・キセノン、クリプトン、ラドンなどの元素で、常温で気体であり何物とも反応せず、人体に留まりにくい
  ●揮発性・・・・・・・・よう素、セシウムなどの元素で、常温で液体であり、水に溶けやすく、人体に留まりやすい
  ●常温固体・・・・・・ストロンチウム、ネプツニウム、ウラン、プルトニウムなどの元素で、常温で固体であり水に溶けにくい

 100種類以上もある放射性物質のなかで、よう素やセシウムが特に注目されているのは水に溶けやすいために雨などに混じって降下し土壌を汚染することも大きな要素です。
このように、放射性物質には多くの性質があり、単に拡散された放射性物質の量だけでは影響の度合いを判断することはできません。要は、ヒロシマ原爆も福島原発事故も相当な量の放射性物質が拡散されたということであり、間違いなく環境に大きな悪影響を与えていることを否とする人は誰一人いないと思えます。



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