原子爆弾の放射能汚染と、福島原発周辺地域の放射能汚染


 福島原発周辺地域の土壌が放射能汚染され、何十年もの間、人が住めない、作物が作れない、などという不安が避難住民に蔓延しています。
しからば、広島や長崎で原子爆弾が炸裂した後、それぞれの都市がすぐに復興ができたのはなぜか、という大きな疑問が生じます。この疑問は物理好きの者でなくとも、原子爆弾と原子力発電が同じ核分裂という現象によって成されているということを知っている人には必ず生じる疑問です。しかし、これだけ福島原発が大きな問題となっているのに、テレビなどではこの疑問すら話題にならないのは、まったく摩訶不思議なことです。

また、ヒロシマ・ナガサキの原爆放射線と福島原発事故の放射線量は、福島原発の方が100倍ほど多い、というような話も飛び込んできます。さて、どうなんでしょうか?
この回答を下記します。但し、日本にはご承知のようにヒロシマとナガサキの両都市に原子爆弾が投下されましたが、ここではヒロシマ原子爆弾に関して説明することにします。(一部に私見があることをご了承ください)

 原子爆弾の放射線には、「初期放射線」と「残留放射線」の二種類があります。
初期放射線とは、原子爆弾が爆発した時に発生する放射線です。ウラン(ナガサキの場合はプルトニウム)の核分裂によって生じた分裂片(核分裂生成物)から発生するガンマ線と、核分裂によって一気に発生する中性子からなる中性子線です。ガンマ線も中性子線も非常に大きなエネルギーをもった放射線で、人体が取り込みますと大きな障害を与えるものです。
ヒロシマ原爆の初期放射線量を下記に表します。(財団法人放射線影響研究所より・・・同所の単位はグレイ)


  爆心地(0m地点)  ガンマ線 123,000msv(ミリシーベルト)
                中性子線 35,000msv

  500m地点      ガンマ線  35,000msv(ミリシーベルト)
                中性子線  6,400msv

本来はグレイという単位で表していますが、現在テレビなどで多く表現されている人間が受ける放射線量単位のmsv(ミリシーベルト)に換算して表記しました。(換算は当NPO法人が行いました。換算することは適しているものではありませんが、比較しやすいことを目的に換算しました)
この数値をご覧になって驚かれると思いますが、原子爆弾では、一瞬でこれだけ大量の放射線が放出されます。ゆえに、爆心から1km内にいた人の殆どは、この大量放射線を直射され即死しました。いや、原子爆弾の威力は熱線と衝撃波という大きなものがあり、爆心直下では3000℃もの超高熱となったため、放射線死よりも先に蒸発死したのが現実であります。

この初期放射線は、空中を放射線が直進してくる「空中放射線」ですので、爆心から距離が遠くなればなるほど放射線量が下がりますし、また、遮蔽物があれば減衰します。だから、爆心から遠方にいた人、家の中にいた人、物陰にいた人などは放射線照射を大幅に免れました。
私の父は、ドラム缶にもたれていましたゆえに、このドラム缶が遮蔽物となって熱線と放射線を免れ、一命をとりとめました。
原子爆弾は、1億分の1秒という極短い時間に超大量の核分裂を行なわせ、爆発状態にさせるものですからこのような初期放射線が発生します。反して原子力発電は、核分裂をゆっくり起こさせるものであり、さらに福島原発では核分裂が終焉させた状態でしたので初期放射線が外部に漏れ出た量は極微量であろうと推測します。
 次に残留放射線です。
残留放射線は、原子爆弾の核分裂によって生じた放射能をもった分裂片が、長期的に放射線を放出するものです。
ヒロシマ原爆(リトルボーイ)に積載されたウラン235は50s(原料としてのウラン総量は60sでウラン235の純度は80%として試算)と言われており、その内800gのウラン235(同様1sの80%純度として)が核分裂を起こしました。(注意・・・リトルボーイに搭載されたウラン235の量および核分裂を起こしたウラン235の量は諸説があります)
800gのウラン235を構成する核は10の24乗個、つまり1兆×1兆の膨大な数があり、それが二つに分裂するのですから天文学的な数の放射性物質が生じます。それだけでなく、分裂しなかったウラン235やウラン238が59sあり、これらのウランも放射性物質となって長期間放射線を放出します。この中には、今世の中を騒がしていますセシウムもあればヨウ素もあり、ストロンチウムも勿論あります。約200種類の放射性物質(同位体を含める)があったと言われています。その放射性物質には何百年、いや何億年間も放射線を出し続けるものがありますので、これら大量の放射性物質が広島市の土壌に落ちれば、広島市はそれこそ半永久に人が住めない廃墟の街となっていたことでしょう。(なぜ広島市が現在の繁栄を得ているのかは後記します)
このように、原子爆弾は長期的に放射線を出す大量の放射性物質を一気に撒き散らしているのです。
反して福島原発の場合は、冷却水の不足によって燃料棒が溶け出し、その燃料棒から出た放射性物質が圧力容器や格納容器から一部が漏れ、水素爆発によって大気に拡散されたり、また水と一緒に外部に出て拡散されたものです。ですから、現状では原子爆弾と比較する必要はないのですが、これがもし、炉心溶融(メルトダウン)となって溶融した燃料棒が容器の外に出たとしたら、今の何百倍何千倍もの放射性物質が出ることは間違いありません。この点には特に注意をはらってください。
さて本題に戻って、これだけヒロシマの原子爆弾では、膨大な分裂片が一気に発生したのに広島市の土壌は放射線で汚染されなかったのか? (汚染されたのは事実ですが、永久に人が住めない量の汚染がされなかったのか、ということです)
大量の放射性物質はどこに消えたのでしょうか?
 1945年(昭和20年)8月6日午前8時15分、広島市の原爆ドームからほんの少し離れた島病院の上空600mで原子爆弾(リトルボーイ)は爆発しました。
この上空600mが第一の原因です。
「熱線」「衝撃波」「放射線」が原子爆弾の三大威力ですが、熱線と衝撃波は原子爆弾を上空で爆発させば威力が大きくなります。反して放射線は上空であれば威力が落ち、また土壌が放射線で汚染される度合いも低くなります。(地表で爆発させた場合の放射線威力については、たぶん日本ではデータがないと思います。原爆の実験がされていないからです)
次に、ヒロシマ原子爆弾が爆発した瞬間、紫がかった赤い発光体は直径200mの球体に膨れ上がり、その球体の中心温度は100万℃、球体の外周でも7000℃に達しました。実はこの100万℃および7000℃が第二の原因です。
これだけの超高熱は、核分裂の分裂片、ウラン235の燃え残り、ウラン238、そして爆弾の容器など、すべてのものを一瞬のうちに気化させました。この高熱は、爆心地付近の空気を一気に膨張させ、爆心地付近は一時真空地帯になりましたが、その後、今度は周りの空気が真空地帯に逆流し、強い上昇気流によって塵や残骸粉そして気化した放射性物質が上昇気流に乗って成層圏近くまで上昇し、多くは気流に乗って拡散しました。一部の残骸粉や放射性物質は「黒い雨」となって広島市の北西部に降り注ぎましたが、前記しましたように多くの放射性物質は気流に乗って拡散したようです。(地表に落ちてくる放射性物質を「死の灰」=「フォールアウト」といいます)

このように、気化した分裂片(放射性物質)の殆どは上昇気流で成層圏付近まで舞い上がり、気流に乗って世界各国に分散されました。だから、広島市は大量汚染を免れたのでしょう。
放射性物質は、近隣県や遠く離れた大阪や東京にも多くは降り注いだはずです。しかし、当時は線量計が発達しておらず、どこでどの程度の放射線量が計測されたかは不明です。ですが、おそらく世界中に放射性物質を撒き散らしたと考えられます。つまり、放射性物質が世界に拡散されることによって局地的な土壌汚染を回避したとも言えるのでしょう。
世界の各国で行なわれたプルトニウム原子爆弾の実験で、プルトニウムが世界中に拡散され、日本の土壌にも若干ではありますがプルトニウムが検出されます。プルトニウムは天然では産出されない人工的なものですので、プルトニウムが日本の土壌にあること自体が不思議なことなのですが、テレビや新聞でこのことを殆ど取り上げないことも不思議のひとつです。なのに、福島原発の周辺でプルトニウムが検出されたことには大騒ぎしていますが・・・・・・。
 これと同じように、福島原発事故で放出された放射性物質は世界中に拡散されていることは事実であり、世界各国に迷惑を及ぼしていることも事実です。
放射性物質の拡散は距離の二乗に反比例しますので、距離が遠くなればなるほど影響が小さくなります。しかし、放射線は未だ解明されているものではなく、果たしてどの程度の放射線量なら人体に影響がないか、という点では明確に答えることはできる人はないでしょう。
ゆえに、より安全な規制値となるのは当然のことで、また、「ただちに人体に影響がない」というような中途半端な言い方になるのもやむをえないのかも知れません。
確実に言えることは、放射線は「浴びる」より「浴びない」方がいいことに間違いはありません。



                                                                         2011.04.11 記載
                                                                         2015.08.15 一部追記



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