核分裂の平和利用


 核分裂から生じるエネルギーを兵器として用いているのが原子爆弾であり、核分裂を平和的に利用しているのが原子力発電(原発)です。
「平和的」と書きましたが、これは勿論希望的な意味であって、事故を皆無にし、安全に運用することが「平和的」という言葉の前提となることは言うまでもありません。

 発電には大きく分けて「水力発電」「火力発電」「原子力発電」があり、最近になって「風力発電」や「太陽熱発電」などが加わってきましたが、日本の場合、火力発電と原子力発電にその需要の殆どを依存しているのが現実です。
 火力発電の主な燃料は石油・石炭・天然ガスです。例えば、石油を燃焼させ、その燃焼エネルギーで水から水蒸気をつくり、水蒸気でタービンを回転させて電気を得ます。 これが火力発電の簡単な仕組みなのですが、石油資源の問題、コスト高の問題、そして最近では燃焼時に発生する二酸化炭素がもたらす環境問題が大きくクローズアップされています。
 原子力発電も勿論ウランという有限の資源を使用するが、その量は石油に比較すると極めて少量であり、しかも「燃料リサイクル」によって無駄なく使用することができます。 また、燃焼時に二酸化炭素を発生させないので「クリーンなエネルギー」と言われてはいますが、逆にウランという元素および核分裂によって発生する放射線が人体を侵すこともあり、さらにはメルトダウン(炉心崩壊)等によって大爆発が生じる危険性もゼロであるとは言えません。
 このように物事には「一長一短」というものがあって、全てが良いものはなく、全てが悪いというものはないのでありますから、大切なことは仕組みを理解して判断する、ということが大切であると思います。




 ここでは「原子力発電の仕組み」について説明します。

 原子爆弾は、ウラン235を1秒の1億分の1という超短時間で核分裂連鎖反応を終了させ、それによって得るエネルギーを破壊殺傷兵器として使用したものです。
反して原子力発電は、核分裂連鎖反応を一気に起こすことなく、少量の核分裂を安定的に、しかも継続的に起こすことによってエネルギーを得、そのエネルギーによって水から水蒸気をつくり、その水蒸気でタービンを回し発電を行ないます。
したがって原子力発電においては、核分裂連鎖反応を制御すること、そして核分裂によって発生する放射線を外部に漏らさないこと、核分裂の連鎖が暴走して爆発というような事態を発生させないこと、これらが最大の課題なのです。
 まず、原子力発電事故で核爆発が起こるか、という問題についてですが、これは殆どあり得ません。 世の中には「絶対」というものは無いので「絶対に起こらない」とは書けませんが、「極めて絶対に近い殆どである」と理解していただきたいと思います。
なぜなら、原子力発電の燃料であるウラン235の純度は10%以下であるからです。ですから、90%以上はウラン238が混合しています。
原子爆弾は、100%に近い純度のウラン235を用い、純度が低いと核分裂連鎖反応が継続せず、核爆発に至らないことはウラン爆弾の説明で書きました。
チェルノブイリ事故で爆発が生じましたが、この爆発は炉心の温度が急激に上昇した結果の爆発であって、決して核爆発を起こしたのではありません。
しかし、核爆発ではありませんが、この爆発によって大量の放射線を周囲に撒き散らし、重大な被害を与えたことも事実であるからして、原子力発電事故の恐ろしさを軽視するものでは当然なく、絶対にそのような事故を起こしてはなりません。

 次に、「核分裂連鎖反応を制御する」ということの説明です。
この制御方法は、大きく分けて次の2点があります。

1.「減速材」によって中性子のスピードを減速させる
2.「制御棒」によって中性子の量を減らす

 まず 1.減速材 です。原子炉の中では、燃料棒のなかに入っているウランの核分裂によって中性子が物凄いスピードで飛び出しています。中性子のスピードが速すぎると核に衝突することが難しくなります。中性子のスピードを減速させれば核に衝突しやすくなり、それだけ核分裂の効率が良くなります。
 燃料棒は減速材の中に浸されています。減速材は中性子のスピードを落とすために備えられたもので、日本の原子炉では水が減速材として使用されています。水を使った原子炉を「軽水炉」と呼びます。 

 他の減速材としては重水やグラファイトがあります。重水を使った原子炉を「重水炉」といい、水を使った原子炉を「軽水炉」と呼んでいます。

 次に「制御棒」ですが、原子炉の中では核分裂によって生じた中性子が大量に存在し、この中性子が次から次に核に吸い込まれ、さらに核分裂を生じる連鎖反応が継続されています。つまり、中性子の数が多ければ多いほど核分裂の連鎖が大きくなるわけで、中性子の数を減らせば核分裂の連鎖が小さくなる、という理由です。
 しかし、余りにも中性子を減じてしまうと核分裂の連鎖自体が停止してしまうことになります。つまり、原子炉の中の中性子数を一定の数に保ち、核分裂を最小限に抑え、継続かつ安定的に行えるだけの中性子数に減らす役目をするのが「制御棒」なのです。
 制御棒は、「カドミウム」のように中性子を強く吸収し、しかも自体が核分裂を起こさない物質を用いています。この制御棒を原子炉の中に深く挿入すれば、原子炉の中の中性子は制御棒に殆どを吸い取られ、ウラン235の核には入ることがなくなるため核分裂が起こらなくなります。
 制御棒を原子炉内から抜き取っていくと、中性子源から放出される中性子が引き金となって核分裂が開始され、再び核分裂連鎖反応が起こることになります。
 このように制御棒は、原子炉の中の核分裂連鎖反応を自在に制御できる機能を有しているものであり、一般の原子炉では、緊急事態が生じた時に自動的に制御棒が原子炉に深く挿入され、原子炉が停止するようになっています。


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